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2008-09-08

パイプスタンドの男

過去の記事で、反響が多かったものを少しずつUPしていくよ。

要望も多いからね。

とは言っても、全部Wordベースでしか残っていなくて、結構

面倒な作業なんで、本当にちょっとずつな。

一度読んだことがあるって人は、今日はスルーしてくれ。

               

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あんたの仕事はひたすら薄汚れたストリートを

眺めていることだ。

職場は24時間人気が途絶えることの無い、

JRのターミナルステーションから徒歩1分の広場。

生きるために汗だくで歩き去る会社員を見てるもよし、

携帯のストラップに成り果てたガキを見てるもよし、

なんだったら平家物語の暗誦なんてのも悪くない。

盛者必衰の理を顕す。

エッジの効いたいい時間潰しだ。

            

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やってもらうことはただ一つ。看板を支えてくれりゃいい。

安手の細長い角材と薄さ2センチの平たいプレートを

接合しただけのひどく質素な看板をね。

何が書いてあるかなんて気にする必要は無い。

借金が焦げ付いたやつをさらにカモにする闇金、

誰も進んでは買わない曰く付の不動産、

違法風俗店の割引チケット。

どの道まっとうなやつなら興味無しの闇のガイドだ。

平和のつもりでいるやつとブラックゾーンとの

境目に立つ仕事。悪くはないだろう。

日常と非日常はいつだって紙一重なのさ。

                  

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ずっと宙高く上げている必要なんてないし、

疲れたなら座り込んで方でればいい。

これで日給五千円。 

九時から十七時が定時で、残業なんて滅多に無い。

一日五百円ばかりで寮だって用意してくれる。

どうだい? 良い仕事じゃないか?

ちょっと手取りは少ないが、

弱者が自殺が樹海旅行の順番待ちをしてる今の日本じゃ、

こんな仕事でもあるだけマシだ。。

それさえありつけないやつはごまんといて、

日米型資本主義のスイサイド待合室には、

今だって人が溢れているんだから。             

                         

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おれが会った看板持ちは三十六歳の男。

ユニクロのブルーのフリースにスーパー売りの

すり切れたジーンズ。

髪は半年散髪に行ってないというだけあって、

肩まで伸ばし放題だ。

             

『おれの仕事は椅子の代わり。しかもバイプ椅子のね。

道路交通法上、看板を道路には立てて置けない。

だから人間に持たせているのさ。夢も希望も無い。

このまま野垂れ死ぬまでこいつを持って、

ここに立ち続けるんだ。』

そうひとりごちる彼の目には、

彼を蔑んだ目で見ながら通り過ぎる通行人が、

只々映し出されていたっけ。

本質はちっとも変わらないのにな。

看板持ちのおっさんと、おれやあんたの差なんて、

いい加減に並べられた都会のペンシルビル同士の

隙間ほども無い。

看板おやじだって、ついこの間までは、まさか自分が

こんな生活をしているとは夢にも思わなかったそうだぜ。

               

え、自分は大丈夫だって。 

疑問を持った時点で世の中を、日本って国を過大評価しすぎだ。

国民を守る方針から、切り捨てる方針に変えてからのこの国じゃ、

誰もがデッド オア アライブの境界線を綱渡りしてるのだ。

今回の話だってその中の一例に過ぎない。

          

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そのおっさんは1年半前まではごく普通の会社員。

大きくは無いが、そこしか作れない精密部品を持っていて、

中堅メーカーとして頑張っている企業だ。 

         

ところが片親だった母親が痴呆症になった。

不運なことに乳ガンも同時期にかぶって要介護状態。 

彼の当時の手取りは三十万で、妻と6歳の息子が暮らす

金は当然必要だ。

ベッド代に何度も続く手術費は、相当なダメージ。 

加えて不動産屋の口車と、住宅金融公庫の縮小と地価

の底値なんていう、経済界発の購買扇動によって買った

マンションのローンがいっそう首を絞めた。

週に二十時間の残業をして、妻がパートに出たりで何とか

介護費用を捻出していく。

勿論、合間を縫って、母の見舞いだって駆けつけた。

だけど、そんな生活は長くは続かなかったんだ。

            

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介護費用は負担が重く、

かと言ってすぐに入れる老人ホームは、庶民にはとても手が

届かない値がつけられている。

比較的安い所も、でたらめな順番待ちで、何故か金持ちから

優先して抽選に受かる始末。

彼が早々に母親を施設に預けるには、然るべき所へ

然るべき額の裏金が必要だったが、彼には…いや、

ほとんどの国民には、とてもじゃないが捻出不可能な

馬鹿げた額面なのだ。

               

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母親の病状は悪化。。

出来る限り家族が付き添うことが、この世に繋ぎとめる鎖に

なるとドクターから釘を刺された。

(おれだって出来れば毎日でも見舞いに来たい。でもそれが

出来ないんじゃないか)

男の叫びは声帯を振動させることはなかったが、

その分、下唇にはたくさんの傷が出来た。

柔らかくて熱い傷跡だ。

                        

彼の家は狭いのと、昼は誰もいない為、かえって危険だ。

仕方なく毎日仕事が終ってから、

埼玉の東川口の実家に寄って、

深夜に練馬の自宅に帰っていた。

当然限界点は訪れる。

その生活をして4ヵ月後、彼は職場で倒れた。

質量の小さな発砲スチロールが落ちるように、静かに…重く。

               

日本国民全員が既に承知済みだろうけど、

必要なときに、国はあんたに何もしてくれないし、

医療費も介護負担も保険料も、経済や国民生活なんて

置いてけぼりで上昇していく。

当然彼にだって救いの手は差し伸べられなかった。

               

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彼は仕事を休んだ。 

溜まっていた有給を目一杯とって、介護にあたった。

          

一部の大手企業や公務員で無いなら、

長期の休暇が終って帰ってきたときに、席が無いことに、

あまり驚きは感じないだろう。

彼はあっさり失業し、僅かな退職金も病院の支払いに当て、

母の実家近くの零細企業に再就職した。

             

ところがそこは更に悪条件。

朝の九時からはじまる仕事は、夜の九時までの

十二時間拘束がスタンダード。

残業代なんて支給されないし、隔週での土曜出勤もある。

それでも母の介護を怠るわけにもいかない。

金が無くて施設や病院に入れてやれない分、

毎日深夜まで働いてから実家に寄り、母と終わりの時間に

向けての時を過ごした。

更には足りない分を稼ぐために、日曜は建築現場の鉄骨

運びのバイトをした。それでも徐々に家計は悲鳴のトーンを

上げていく。

彼はまた倒れた。

そして終に借金した。 たった五十万だった。 

            

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何も障害が無いやつなら、五十万の借金は頑張れば1年も

あれば返せるだろう。

だが、ちょっとでも悪条件が重なったやつはそうはいかない。

この国でなら、諭吉五十人は人を殺すには十分な重さ。

人よりも金。それを選択したマーケットの上では、

ワーカホリックに働くことを止めた瞬間、例えどんな理由で

あろうとも、脱落を意味する。

「動かないロボットは廃棄するだけ」

残酷だが、それがおれたちが選んだ社会だ。

                        

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後はとんとん拍子に下り坂だ。

借金は徐々に増えていき、首が回らなくなった。

毎日のように、サラ金から債権を売り飛ばされたやくざ

もどきから脅迫めいた電話が続き、

妻は息子を連れて出て行った。

最終的に、母親は乳がんの再手術が受けられず、

かなり苦しみながら息を引き取った。

               

そして彼も事実上全てを失い、

まだまだ寒い四月頭の新橋で、闇金の看板を持ち続けている。

彼の瞳がどれだけ乾いていたか、書かなくてもあんたなら

容易に想像つくだろう。日本は狂っているのだ。

            

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35歳で手取り三十万。

妻と小さな息子が居て、都下に三千万後半のマンションを

買い、ローンを払って生活している。

なぁ、これは特殊なケースか。 

彼がおかしいのか…違うだろう。

         

日本でならごく当たり前にあるであろう、

メディアと政府の言いなりに沿ってきた平凡な家族だ。 

そんなやつでさえ、身内の病気一発で人生にピリオドを

打たれる。この意味がわかるだろうか。

そしてこの国が目指す美しい国が何なのか、

正体が掴めたかい。 

               

介護費用は年々負担が増し、保険料も同じ。

年金の信用だって、地に落ちきっている。

WEが可決されるまでも無く、労働組合も無い

会社ははなから残業代なんて満足に出ちゃいない。

小さな企業では、上司に逆らっただけで辞めさせられる

なんてデタラメな状況だって現実に起きているんだ。

民間の保険会社も政府への献金のおかげで

組織上げての払い渋りを堂々とやってくる。

(※現在は一部摘発されている 筆者注)

それなのに、政治家は年金で豪遊し、血税で野球拳をし、

永田町では道路利権と海上給油利権にすがりつくことに

必死な面子が大騒ぎだ。

            

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彼より待遇の悪いやつがこの国に何人いると思う。 

それに彼よりちょっとくらい境遇が良い程度では、

今回の結果が変わらないのは明白だ。

         

…これがこの国の実情、いや、この程度じゃない。

これからますます格差拡大のスピードは上がっていく。

あんた自身だけじゃない。

妻や息子、両親まで含め、何か一つでも重大なトラブル

が起きればすかさずゲームセットの可能性だってある。

             

でも、自民党が悪いんじゃないぜ。

小泉は、

『こういう世の中にします。2割の人間を繁栄させて、

8割の人間が地獄を見る世界にします』

と言ってたし、 安倍だって

『小泉総理は甘い。 もっと奴隷層から搾り取って

支配構造を磐石にします。』

ときちんと言っていた。

それでも国民は、小泉はどうやらいい政治家らしい。

安倍さんが日本をよくしてくれるらしい。なんて出所不明な

情報を頭から信じて、弱いやつほど自民党に投票したんだ。

自民党が国民を馬鹿にするわけだろう。

無関心ほど、怖いものは無いのさ。 

                        

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看板もちのおっさんがおれに言ったこと。

       

『おれも2年前までこんな看板持ってるやつを馬鹿に

してたし、まさか自分がそうなるなんて思ってもなかった。 

この国じゃ何かあった時の為の貯金が最低五百万は

必要だな。だけど、子育てや結婚、介護なんて考えたら、

そんな金を捻出できるやつはそう居ない。おれだって

中堅どこの係長だったんだ。それでもこの様。 

会社の命令通りに、ずっと自民党へ投票していたし、

それで生活がよくなるんだと思っていた。

今に思えば自殺志願書みたいなもんだったんだな』 

            

再チャレンジをスローガンに掲げるこの国だが、

残念ながら彼はおそらく二度と這い上がれない。

それはあんたにもわかるはずだ。

          

あんたも毎日の通勤・通学で、ターミナル駅を通るなら、

看板持ちのおっさんを見るだろう。

彼らをどんな目で見るのも自由だが、

彼らとおれたちの間には、なんの差も無いんだぜ。

小石にでも躓けば、簡単にあんたもパイプ椅子デビューだ。

      

故に、彼らに冷たい視線を落として通り過ぎるやつを、

おれはあまり信用しない。

四月の日差しは、クリーム色に新橋を染めている。

今年の夏はとびきり暑くなりそうだな。

いや…熱くならなくちゃいけない。

                                            

※2007年春取材、同年四月下旬に公開した記事です。

            

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